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プラチナライフ

おひとりさまに聴く

Vol. 1

いつも5年先を考えて準備をする。
あとは、好きなことをして、パタッと死ねたらこんなにラッキーなことはありません。

舘野素子さん

カフェのお客様

舘野素子さん
東京都内のマンション(持家)でひとり暮らし。4人兄弟の2番目。
出版社勤務などを経て、現在は映像ジャーナリストとして活躍。

リタイア後に映像ジャーナリストを志す

館野さんは映像ジャーナリストとして第一線でご活躍ですが、このお仕事を始めたのはリタイア後だとか?

はい。十数年前になりますが、当時、それまで会社員として第一線で活躍してきた人たちが、ホームレスになるという現実に出くわしました。それも1人や2人ではないばかりか、きっかけが親の介護や自分の病気など、誰にでも起こりうることだったりするのです。私と同年代の人がそんな状況にあるのを見て、「悔しい、何とかしなければ」と考えるようになりました。

 

ちょうど、勤務先に早期退職者への退職金優遇制度が導入された時期でしたし、私が特集を担当した雑誌が完売したこともあって「今が辞め時だ」と思いました。それで57歳の時に辞表を出し、退職しました。

 

なぜ映像のお仕事を?

友人が「映像の学校に通い、映画を作った」と言うのを聞いて「これだ」と思ったんです。早速、願書を送り、1年間映像の勉強をしました。当初はホームレスを撮ろうと考えていましたが、他にも同じことを考えている人がたくさんいました。「この問題は若い人たちに任せよう」と考え、当時はまだ小学校低学年だった、能の稽古に励む兄弟を追った「能 夢幻を舞う子供たち」という作品を撮りました。

 

最近はどのような作品を撮られたのでしょうか?

愛媛県の津和地島に、新盆を迎える遺族の遺影を背負って盆踊りを踊る風習があるんです。死者を彼岸に送り出す意味合いがあるそうですが、その幻想的な風景と島の方々の温かな人柄に「ここはユートピアだ」と感動して、これを映像に残そうと考えました。

 

ところが、その翌年、盆踊りを主催していた老人クラブが、会員の高齢化で解散してしまったのです。「私のユートピアを無くしてなるものか」という思いもあって、3年半かけて島の生活を撮りました。その映像を改めて見てみると、まるで過疎化の過程を撮影したかのよう…。できあがった映画は、こう言うのも変ですが、女々しいものでした。にも関わらず、見てくださった方たちから、「故郷を思い出して感動した」「母を思い出して涙が出た」という、意外な反応がかえってきました。それまでは、映画は映像で語らなければならないと考えていましたが、実はそうではなくて、そこから何を連想するかが大切なのだと悟りましたね。

 

家事支援の制度があれば90歳まで1人で生きられる

ところで、舘野さんご自身は「おひとりさま」ですよね。一人で生きて行くことをどう考えていますか?

私の場合、結婚したくないと考えて結婚しなかったわけではないんです。適齢期と呼ばれる時期に、家族のことに時間を取られて結婚できなかった。当時、寝たきりだった祖母が亡くなったこともあり、ずっと看病をしてきた母が更年期うつの状態になったんです。弟が小さかったこともあって、「私が頑張らなければ」と必死でした。無理をしすぎたのでしょうか。母が良くなると今度は自分が病気になり、仕事を辞めざるをえませんでした。

 

まだ女が1人で生きることは考えにくい時代でした。でも、好きな仕事なら薄給でも楽しいのではないかと考えて、最初はアルバイトとして出版社に入りました。その後、正社員になりましたが、ずっと無我夢中で働いてきましたね。

 

実は、結婚を考えた人もいました。でも、家庭の事情で結婚できなかった。今思えば、その人が私の価値観の土台を作ってくれた人だったんですね。その後も出会いはあったものの、どこか価値観が違う。「あの人を諦められたのに、この人で妥協するのはいやだ」という思いがあったんだと思います。

 

この先のことを考えて、不安になることはありませんか?

経済的な不安は感じますね。映画を作ったりして退職金を半分くらい使ってしまいましたから(笑)。

それと、母や叔母を見ていると、80歳を過ぎると自分で身の回りのことが少しずつできなくなるんですね。ケガをしても治りにくくもなります。その時に、介護支援、なかでも家事支援のような制度があれば、90歳くらいまで1人で生きられると思うのですが、残念ながらそのような制度は、今の日本にはありませんね。

 

常に5年先のことを考える

ご自分の万一のときのことは考えていますか?

はい。姪に「たとえば認知症になったら、迷わず病院へ入れてね」と頼んでいます。自宅を人に貸し、年金も合わせれば、入院と介護の費用はまかなえるでしょうから。その手続きもお願いしています。彼女は、私の親族で一番お金にシビアなんです。私が無駄遣いすると「そんな物を買って…」と、冷たい目を向けたりするくらい(笑)。

 

それで、彼女に「万一の時はこうしてほしい」と伝えると同時に、遺言も書きました。姪にお金を残すことはできなくても、マンションは彼女に相続させたいと考えています。親族全員の前で、その話もしています。

 

「おひとりさま」の後輩へのアドバイスがあれば、お願いします。

65歳までに、その後の人生をどこで、どう送るかを決めるということでしょうか。終の棲家を決め、万一のときのことも考える。自宅のリフォームなども、支障なく力仕事ができる65歳までにやったほうがいいでしょう。それと、家電製品はいつか壊れますから、その買い換えの費用を200万円程度、生活費とは別に準備しておいた方がいいと思います。

 

あとは、常に5年先のことを考え、計画を見直すことも必要でしょうね。それ以外は、好き放題に生きたいと思います。たとえ周囲に「やり過ぎた」と言われても突っ走る。それでパタッと死ねたら、こんなラッキーなことはないと思っています。

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