専門家に聴く
Vol. 15
カフェのお客様
おひとりさまにとって晩年をどこで過ごすかは、とても重要な問題です。「足腰が不自由になったら老人ホームなどの施設に入りたい」と考える人も多いでしょう。とはいえ、多くの施設の中から最期まで自分らしく過ごせる施設を探すには、どうすればいいのでしょうか。一般社団法人有料老人ホーム入居支援センターの代表理事である上岡榮信(うえおかしげのぶ)さんにうかがいました。
そうです。入居者の視点でいい老人ホームを探し、紹介するためです。そもそも、本当にいい老人ホームは広告宣伝をしません。
口コミだけで入居希望者が集まるからです。いい老人ホームは、そこで世話になった親が亡くなったあとも、子どもがホームの応援団になったり、入居を希望したりしています。だたし、そのようないい施設は全国に十数箇所しかありません。
当社で本当におすすめできる施設は全体の5%程度、まずまずのところが10%程度、おすすめしないところが85%程度という比率です。
私自身が1400箇所以上の施設を訪問し、その経験をもとに作成した独自の基準で調査と評価を行っています。ですが、皆さんがご自分で見学をなさった場合でも、いいかどうかを見分けられるポイントはあります。
たとえば、玄関に人気(ひとけ)がないところや、呼び鈴を鳴らさないと誰も出てこないところはまずダメですね。生花が飾られてないところもダメ。生花はきちんと世話をしないと枯れてしまいますよね。その世話ができない人に人間のお世話はできませんよ。
手作り感があって温かみのあるところはいいですね。そういう施設は、従業員の表情も生き生きしています。たとえば、東北地方のある施設は、夕食のときにその場で肉がいいか、魚がいいかを決めることができ、しかも調理方法まで希望が言えるんです。おまけに、日本酒と酎ハイとビールまである。食器だって、マイ箸、マイ茶碗ですし、食卓も自分が座りいいところを選べるんです。
その一方で、おむつ交換のときに5分程度の世間話をしただけで、スタッフが経営者から叱られるような施設もあります。おむつ交換をすると介護保険からお金がもらえるけれど、世間話は1円にもならない。そんなヒマがあるなら他の部屋へ行っておむつを交換しろというわけです。
効率という面から考えたら、世間話はムダなこと、余計なことです。でも、その「余計なこと」が温かみや思いやりじゃないですか。介護を仕事にする人は、賃金が安いことを承知で人の役に立ちたいと思っているんです。そこに経営者が水を差したら、スタッフのやる気が失われます。それは入居者の満足度低下にもつながるでしょう。要するに施設の善し悪しは経営者の姿勢や哲学、ビジョンで決まります。
行政による規制を守っていれば、入居者や家族から大きな苦情は来ないし、行政からも文句を言われない。営業停止にもならないでしょう。でも、それだけでは足りない。私が「いい老人ホーム」と考えているところは、入居者のワガママを聞き、「余計なこと」をしているところです。スタッフの表情や態度を見れば、そのあたりの状況もわかるものですよ。ちなみに、当社が施設を選ぶ際の基準は「サービスや介護の質」を第一に、「ニーズや希望を叶えてくれるかどうか」をその次に重視しています。
たとえば、「90歳になってもハイヒールを履きたい」と思っている人は、食事のときに乳幼児のようなエプロンを着けることには抵抗があるでしょう。下着に名前を書かれるのもイヤなはずです。つまり、自分は何が許せて、何が許せないかを考え、「妥協と諦め」ではなく「割り切りと折り合い」で取捨選択をする。最善ではなくても次善の策を考えるのです。いずれにせよ、温かみがあって、手を抜かない、だまさない、ごまかさないという雰囲気が感じられるところがいいでしょうね。そのためにも、早くからより多くの施設を見学し、いい施設を選べる目を養うことが大切です。
施設への入居は、選択、判断、決断、実行を伴うことですから、判断力が衰える前に、目安としては65歳を過ぎたら考えたほうがいいでしょう。といっても、考える時期と入居の時期にはタイムラグがあっても構いません。元気なうちに入居するとお金もかかりますし、元気なときと足腰が衰えてからでは必要な部屋の広さも変わるからです。入居の目安は、歩幅が狭くなり、信号が変わる前に横断歩道を渡り終えなくなることでしょうか。トイレが間に合わなくなる前がいいと思いますね。
それも経営者次第です。本当にいい老人ホームは、いいお医者さんと連携して「最期までお世話をする」と表明しています。ただし、某経済誌が行ったアンケートでは、9割の老人ホームが「看取りケア」を「有る」と回答しているものの、実際に対応している施設は1割程度しかないのが現実です。看取りケアが1例だけだったり、やる気はないのに「有る」と回答している可能性があるからです。
見学に行き、看取りケアや認知症ケアに対応しているかどうか聞いてみるのがいいでしょう。その際、「やってますか?」ではなく、「昨年は何名利用されましたか?」と聞くんです。少なくとも年に3~5人、通算で20人以上利用していなければ「対応している」とは言えないでしょう。
加えて「ということは、訪問介護をしてくださる立派なお医者様がいらっしゃるのでしょうね。先生のお名前をうかがってもよろしいですか?」と質問してみるといいでしょう。即座に名前が出てくるなら本物です。名前が出てこないなら注意したほうがいい。看取りケアや認知症ケアは、医師、看護師、スタッフが一丸とならなければできないことだからです。
安易にそう考える人もいますが、現実には難しいですよ。体力や気力が落ち、お金も少なくなったときに移ることは、心身共にダメージが大きいと言わざるをえません。ちなみに、社会福祉法人の中には、「健康型」の老人ホームと低料金で利用できる特別養護老人ホームを運営していて、金銭面の心配が出てきた場合には、特養に移る相談に乗ってくれるところもあります。