おひとりさまに聴く
Vol. 17
カフェのお客様
ペットを飼いたいけれど、旅行や夜の外出ができなくなるといった制約ができそうで、ためらっているおひとりさまもいるのではないでしょうか。今回は、「犬を飼ったことで人生が変わった」というおひとりさまのAさんに、ペットを飼ったきっかけや生活面での変化、ペットと暮らす上で気をつけたいことなどをうかがいました。
もともと犬好きだったのですが、ひとり暮らしでは相当な覚悟が必要だと思い、慎重になっていました。ですが、引っ越したマンションがペットOKだったこと、離れて暮らしていた父が亡くなり、実家に帰省する機会が減ったこと、友人や実家の犬など、身近に犬がいなくなってしまったことなどが重なり・・。
犬の寿命は平均15年程度と言われていますので、あまり年をとってからでは犬が遺される心配もあります。自分の余生から逆算して考えて「今でしょ」と思ったのです。飼っているのはチワワ。いつか飼いたいと思っていた犬種です。ネットで検索していたら、ご縁があってあるブリーダーさんのところからウチに迎えることができました。
最初は大変でした。マタニティブルーは、ちょうどこんな感じじゃないかと思うくらい…。「私はこの子を育てていけるのだろうか」と責任の重さを感じましたね。義務である狂犬病予防接種を始め、混合ワクチンやフィラリア予防、ノミ・ダニ駆除などの健康管理、トイレなどのしつけ、さらに人や犬にムダ吠えしたりしないよう、「犬の社会化」も必要なことを知りました。
ペットショップで販売されている犬だと、生後1カ月程度で親犬や兄弟犬と引き離されてしまうことも多く、犬同士のコミュニケーションが取れないケースが多いのです。うちの場合は2カ月半まで親元にいましたが、マンション生活で留守番が多いため、私も「パピー教室」に通って、犬同士の挨拶の仕方を学んだりさせました。今は褒めて育てる、犬の気持ちになって考える。
犬に教えられたことがたくさんあります。私は、昨日までできたことができなくなったら絶望するタイプでした。でも、犬の場合は、例えば10歳で捨てられるなどして保護犬になったら、保護団体などの「預かりさん」、もしくは里親がしつけをし直す。できなくなったら、また一から始めればいいのです。それを知って前向きになれた。考え方、発想が変わりましたね。
毎日散歩をするようにもなりました。雨の日や雪の日は、キャリーバッグに入れて外出し、近くのスーパーの駐輪場で歩かせています。散歩するようになったことで、晴れるとうれしいし、花が咲くとうれしいと思えるようになった。当たり前の生活を楽しいと思えるようになりましたね。
そうですね。それと、犬を連れている人同士は、すれ違うと「こんにちは」と挨拶をします。スーパーは犬を連れて入れませんが、近所の商店街のお店は犬を抱いていれば入れるところが多く、お店によっては「下に下ろしていいよ」と言ってくれます。おでん屋さんの前で電柱にマーキングをしそうになり、慌ててリードをひっぱったら、お店のご主人が「いいよ、あとでお湯をかけておくから」と声をかけてくれたこともありました。
以前の私は仕事人間で、地域とのコミュニケーションなどありませんでした。でも、犬を通じて自然と地域とのつながりができた。人の優しさを感じることも多い。
ママ友ならぬ犬友もできましたよ。お互い本名は知らず、私は犬の名前がシェリーなので「シェリーくんママ」と呼ばれています。犬がいなければ知り合わなかっただろう年齢や職業の知り合いもできた。いまは、交友関係の半分くらいを犬友が占めています。犬を飼ったことでIT化も進みました(笑)。ガラケーをスマホに代え、facebookを始め、デジイチも買った。うちのブリーダーさんがfacebookで情報発信をしていることもあるのですが、災害時などはメールよりもfacebookなどSNSのほうが「ヘルプ」を発信しやすいし、拡散もしやすい。熊本地震ではtwitterで犬との同行避難の情報がたくさん発信されていることを知り、twitterも始めました。
私に万一のことがあったり、病気で入院したときは、ウチ以外の場所で暮らすことになりますよね。そのときに、私がいないと眠れないようでは困ります。いつもトリミングなどで慣れているペットサロンに1歳前から預けて、他の場所で暮らす経験をさせています。だから、海外旅行で1週間くらい預けても犬にストレスはないようです。
はい。友人たちには、私に何かあったときには犬をよろしくと、お願いしています。以前、急病で入院したことがあったのですが、そのときも友人に連絡して預かってもらい、翌日ペットホテルに連れていってもらいました。
「ペット緊急連絡カード」も常に携帯しています。「自宅でペットが留守番しています。もし私が緊急事態に陥っている状態でしたら、裏面の連絡先に連絡してください」と書かれていて、知人の連絡先を記入できるのです。おひとりさまがペットを飼う場合には、ペットが留守番している前提で物事を考える必要があると思うのです。その際、頼りになるのはマンパワー。同じマンションに住む気の合う人には、携帯の番号やメルアドを教えてもらい、LINEでも友だちになっています。同じマンションの人で、犬がなぜかなつき、向こうもかわいがってくれたので、それが縁で仲良くなった人もいます。
災害時はもちろんのこと、自分に何かがあった場合など考え得るいろいろなリスクをシミュレーションして、いざというときに預ける先や助けてくれる人を複数想定し、「何かあったら・・」と事前にお願いをするなど二重三重にセーフティネットを張っています。もちろん、避難所などで迷惑をかけないよう、しつけも大切にしています。
友人や知人もいつでもOKというわけではない。そう考えるとやはりペットホテルがいいでしょうね。お願いしたことのあるトレーナーさんが預かってくれるというケースもあります。また、誤飲や脱走、突然の病気などを考えると、プロに預けるのが安心・・とも言われます。それも信頼関係のできているところがいい。だからこそ、日頃からの関係構築が大切です。
この子がいなくなることを考えると怖いです。でも、私が先に死ぬよりはマシだと思っています。以前は「いつ死んでもいい」と思っていたので、震災も怖くありませんでした。でも、犬を飼ったことで健康に気をつけるようになった。人間が健康じゃないと犬も幸せじゃないからです。
ペットロスについては、最後まで精一杯看取れば、納得できるのではないかとも思います。ただ、「あの時、あれさえしなければ」と後悔するようなことはしたくない。例えば、スーパーの前につないで買い物をしている間にいなくなるという話を聞きますが、それは絶対にしない。留守中にコンセントをかじって感電死する子もいるので、留守番のときにはサークルに入れるなどの安全対策もしています。
幸い健康な子なので、いまは入っていません。その変わり、毎年1回、健康診断を受けています。それにペット保険は、年齢が上がると保険料が上がるので、若いうちに入ったほうがトクというものでもありません。とはいえ、年を取ると保険に入れなくなるので、シニアになる一歩手前で加入しようと思っています。