専門家に聴く
Vol. 14
カフェのお客様
「年を取って足腰が弱ったり、介護の状態になったら、家族のいないおひとりさまは旅行もお出かけも諦めないと…」。心のどこかでそう思っていませんか。ですが、「トラベルヘルパー(外出支援専門員)の助けを借りて、旅行やお出かけを楽しんでいる高齢者もいるのです。今回は、要介護高齢者向けの旅行サービスを提供するSPI あ・える倶楽部代表の篠塚恭一さんに介護旅行についてお話をうかがいました。
これはあまり知られていないことですが、団体旅行の世界には一般社会よりも早くから「高齢化」の波が押し寄せていたのです。
団体観光旅行の参加者は時間にもお金にも余裕のできた50代以上のシニア層が中心です。団体旅行が大好きで、毎年あるいは年に数回ツアーに参加される方も少なくありません。ところが、年を取って足腰が弱ったり健康上の問題が出てくると、ご自分で旅行を断念されたり、申し込みをしても受け付けてもらえなくなってしまう…。そのためリピーターの方が少しずつ減るということが起きていたのです。
要支援や要介護の状態になっても、食べることが好きな人はずっと美味しいものを食べようとするでしょうし、音楽好きの人は自分では演奏ができなくなっても鑑賞は続けるでしょう。でも、旅行好きの人は諦めざるをえないことが多いのです。
その一方で、介護施設などの人たちからは「入所者が亡くなったとたん、一度も顔を見せたことのない親戚が現れて遺産を持って行ってしまう。生前、本人が楽しむことに使わせてあげたかった」と悔む声を聞くことも少なくありません。
ですから、体力が落ちたり、健康上の問題がある人たちのための旅行サービスが必要だと考え、約20年前から提供を始めました。
そうです。トラベルヘルパーは、介護技術と旅行業務知識を備えた「外出支援」の専門家です。身体に不自由のある人や健康に不安がある方の希望に応じて、日常的なお出かけから旅行まで、暮らしに関わるあらゆる外出支援サービスを行っています。
サービスの柱は生活支援、外出支援、介護旅行ですが、利用される方の約半分が介護旅行、次いで外出支援ですね。介護旅行も観光や家族旅行だけでなく、お墓参りや冠婚葬祭への出席、そのついでに「故郷の山が見たい」「温泉に入りたい」と足を伸ばされたりする方も多い。
高齢のご夫婦が2人で温泉旅行をされる際に、現地のトラベルヘルパーが温泉入浴のお手伝いをすることもあります。入浴介助とはいえ、奥様が男湯に入るわけにはいきませんから。外出支援も役所や銀行など生活上必要な外出もあれば、旅行の前の買い物や美容院への付き
添いなどもあります。
増えてきていますね。高齢になりひとりで外出することが難しくなったけれど、家族がいないおひとりさまや、いても家族は仕事や子育てが忙しくて同行するのが難しいという人は、旅行はもちろん、買い物など日常の外出でもトラベルヘルパーを利用されています。
最初はご家族や施設の職員、あるいはや後見人など善意の第三者ですが、2回目からはご本人が直接申し込まれることもあります。一度利用すると周囲の方も「信頼できる」と思われるのか、以降はトラベルヘルパーと2人で外出することが少なくありません。今では利用者の7割がリピーターです。「その人(指名のトラベルヘルパー)と外出したいから、予定は合わせる」と言ってくださる方もいるんですよ。頼まれやすい人になる、頼られやすい人になることがトラベルヘルパーの大切な要素ですから、ありがたいことですね。
ご本人が「旅行に行きたい」と思い、家族が同意し、主治医が許可を出せば、お身体の状態は問いません。要介護5の方でも旅行ができます。家族がいなければ、援助者など家族に代わる人でも構いません。モデルプランもありますが、お身体の状態やご希望にあわせたオーダーメイドの旅行がほとんどですね。おひとりさまで、家族がいない場合は家族の同意は不要でしょうか?
現在は750人ほどです。2001年に交通バリアフリー法、2006年には高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)ができ、公共交通機関での移動が昔ほど大変ではなくなったので、今後は現地の事情に詳しい現地係員制度をさらに充実させていきたいと考えています。
介護生活は長引くことも多いですし、基本的にはあまり嬉しくないことですから、誰もが「できれば避けて通りたい」と考えています。ですが、トラベルヘルパーとタッグを組むことで、要支援や要介護の状態になっても旅行や外出を楽しくことができます。私たちは、介護旅行の普及を通じて安全かつ楽しい人生の思い出をつくり、QOL(人生の質)を向上させることができればと考え、サービスを提供し、トラベルヘルパーの育成を行っています。