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プラチナライフ

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Vol. 5

周囲の人がどう向き合うかによって、
認知症の人が人生の主体者として生きられるか、
客体ではなく主体者として扱われる対象になるかが決まる

木之下 徹 さん

カフェのお客様

木之下 徹 さん
こだまクリニック院長
NPO法人長寿安心会 副代表理事
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東京大学卒業、東京大学大学院博士課程進学、山梨医科大学卒業。
いまから20年前に、研究者として、当時はまだ注目されていなかった認知症(その当時は痴呆症と呼ばれていた)に関わる。2002年から、臨床医として認知症の高齢者の訪問診療を開始。在宅で暮らせる認知症医療サービスの充実や、認知症の人を初期から支援するためのネットワークづくりも推進している。来年早々には、家族とともに来院する認知症の人々のみならず、初期の本人が自ら通院できるような認知症の外来(クリニック)を目指し、三鷹市に開業予定。

「誰もが“自分事”として認知症を捉えることが必要な時代です」

おひとりさまの多くが「不安に感じていること」として認知症をあげています。そこで、認知症にお詳しい医師の木之下さんから、認知症とはどのような病気なのか、おひとりさまの場合には誰が最初に認知症だと気づくのか、また、認知症を発症した場合にいつまで住み慣れた家で暮らせるのかなどについて、率直なご意見をお聞かせいただけませんでしょうか。

その前に、認知症について、どんなイメージを持っていますか?

 

物忘れからはじまって、やがては自分のことも含め、何もわからなくなる…というイメージでしょうか。

認知症には症状が異なる2種類タイプがある

実は、物忘れが主体ではない認知症もあるんです。具体的にいうと、アルツハイマー型認知症は物忘れが主な症状といわれていますが、そうではないアルツハイマー型認知症もあります。レビー小体型認知症の場合には物忘れではなくて、幻覚や幻視などの症状が前面に出ることがあります。さらには全身にその影響が及び、たとえば自律神経障害による起立性低血圧や食後低血圧、臥位高血圧という症状が現れることもあるんです。  

 

そうなんですか!?

専門書「スーパー総合医 認知症医療」(中山書房)の編集にもご尽力された

認知症の症状としてよくイメージされる物忘れは、記憶力という脳の機能の低下によって起こります。一方で注意力が低下するとボーっとすることが多くなります。人の話はアタマに入りません。あたかも物忘れのように見えることがあります。この場合本質的な物忘れではありません。

 

人は寝ているとき体に力を入れづらい。それは獲得した機能。でも認知症によってその機能が低下することがある。睡眠中の大声で話したり、立ち上がって歩きまわる、場合によっては物を壊したり、暴れたりする、こともあります。あるいは全身への影響について、先の起立性低血圧は立ち上がると急激に低下する。ひどい場合には倒れたり、失神することもある。食後低血圧は、食事中に血圧が急に低下する。そのせいで食事をしながら眠ってしまう人もいるんですよ。

 

認知症といってもさまざまあるんですね。ただ、いずれの場合も、まずはご家族の方などが気づくケースが多そうですよね。単身の場合、誰にも気づかれないまま病気が進行し、何もわからなくなっていた…ということになりませんか?

それもちょっと違っていて、一番最初に気づくのはおそらく自分自身です。認知症を自覚して、自分から受診しにくる人もいま増えています。でも、いまの文化では、それを明け透けに人に伝えづらい。隠すのが当たり前かもしれません。

また、認知症になるとすぐに何を言ってもわからなくなる、というのも誤解です。自らクリニックを受診する。そこで認知症の検査としてよく行われる簡単な検査をする。問題はありません。なのに、詳しい検査をすると認知症だったというケースもあります。

 

自分で気づくものなんですね。

おそらく、そうです。そのとき、自分がこの先どうなってしまうのかという恐怖感で苦しむ。サポートが必要です。しかしその適切な理解とサポートはまだ不足しています。いまや認知症は、誰もがなる可能性があると言っても過言ではありません。そして認知症は治せません。認知症になってどう自分を生きるのか。だからこそ、誰もが“自分ごと”として認知症を捉えることが必要な時代なんです。

 

 

ひとりで生きられる限界は比較的早く訪れる

「できるだけ長く自分の家で暮らしたい」と考えるおひとりさまも少なくありません。認知症になった場合、それはいつまで可能なのでしょうか?

訪問診療中の木之下先生

周囲の人々に一切頼らず、ひとりで生きられる限界は比較的早く訪れる場合がある。認知症でなくても、足腰が立たなくなったら、誰かがそばにいなければ生きていけないでしょう。そう考えるとソフトランディングするために、おひとりさまには周囲の人との関係性、ネットワークが不可欠です。

認知症になると、そのスティグマ(烙印、偏見)から、これまで培っていた関係性を無理矢理削り取られることも少なくありません。例えば、周りの人が仕事を辞めるよう勧めたために、職場という社会から切り離されたり、近所の人が寄りつかなくなったり。しかしその一方で、新たな関係性が生まれるはずです。どういう関係性かは別として。

 

必ずしも、「よい」新たな関係性でないこともあるのですか。

ひとり暮らしをしている。認知症になる。誰かが心配して訪れる。そのときに家のなかが散らかっている、話もかみ合わない。「あの人は認知症になっている。徘徊して行方不明になるかもしれない。近くに親戚もいないようだし、心配だから施設に閉じ込めておくべきだ」などと、本人の希望を超えて、善意から行政に進言されないとも限りません。

 

そんなことにならないためにも、おひとりさまは何をどうすればいいのでしょうか?

私は、周囲が認知症の人ときちんと向き合うかどうかが、認知症の人が人生の主体者として生きていけるか、それとも客体として扱われる対象になるのかの、ここが境目になると考えています。人生の主体者として生きるためにも、まずは自分が認知症という疾患をきちんと理解するとともに、周囲の人にも認知症へのスティグマのない理解の仕方で、「認知症になってどう生きるか」について深めてもらい、新たな暮らしを見つけてもらう必要があります。

 

2つ目は、“認知症適齢期”、つまり認知症になる前から、本当の自分との、地域社会とのつながりを作ること。かつては当たり前のように、身近な隣近所とのつきあいがありました。ところがいまは、仕事場と生活の場があまりにインディペンデントでバラバラです。

 

 

“認知症適齢期”になったら、「自分のコミュニティー」とのつながりを作る

ただ、現実問題として、おひとりさまの多くは地域と関わる機会がないまま長年過ごしてきているわけです。“認知症適齢期”になったからといって、突然、地域に溶け込むのは難しいことではないでしょうか?
地域社会と言いましたが、今の時代に合わせて、いま住んでいる場所という物理的な地域だけをイメージしているわけではありません。人と人とのつながりがベースになっている場のことです。「自分のコミュニティー」と言ったほうがいいかもしれません。

 

それは、同じコンセプトを共有して一緒に活動している人たちの集まりとか、友だちとのつながりでもいいということですか?

認知症になっても住み慣れた地域の良い環境で暮らし続けられる社会の実現を目指す「お福の会」の発起人のお一人

そうです。利害関係を超えるような、本当の自分との、人々とのつながりがあればいいんです。いまの仕事友達でもよいかもしれない。飲み友達でもよいかもしれない。参考になるもの、あるいは自分が認知症になったらなおさらですが、とても役に立つものがある。それが、ピアサポート同じ悩みを抱える人、つまり認知症の人同士の支え合い。これが3つ目です。その一環として、認知症の当事者が「認知症と生きる」ことをテーマに情報交換や情報発信をし、交流することを目的とした「3つの会@web」というサイトもあります。掲示板への書き込みは8割以上が認知症の当事者です。認知症の人ならではの生活上の工夫や悩みなども発信しています。もちろん、ピアサポートをサポートする存在も必要です。

 

認知症の人同士がつながり、さらにそれを支える人とのつながりもできるんですね。

4つ目は、将来の意思決定をし、それを誰かに伝えることです。相続など財務的な問題はもちろん、どのようなケアをして欲しいのか、死んだらどうして欲しいのかを決めて、きちんと伝える。例えば、「オレは白玉が嫌いだから、自分で食事ができなくなっても、絶対に食べさせないで欲しい」なんてことも、ちゃんと伝えるべきです。嫌いなものを食べさせようとして暴れる。ある意味であたりまえの行動です。しかし「認知症であるが故の異常な症状」とされ、薬付けにされたり、拘束されるなんてことも起きかねませんから…。

 

認知症の人が怒ったり、暴れたりした場合、当たり前ですが、そこにはちゃんと理由がある。そこを端折らずに、周囲の人々の当たり前の理解がある。そういう、認知症の人と向き合える世の中になって欲しいと思っています。それは認知症であろうが、なかろうが大切なことです。

 

認知症をきちんと理解し周囲にも知ってもらう、コミュニティーとのつながりを作る、ピアサポートを活用する、将来の意志決定を伝える。認知症を“自分ごと”と捉えたうえで、この4つをどう推進できるかを考えていくことが、おひとりさま自身のためにも、世の中のためにも必要なんですね。スマイルCafeもそういう役割を担えるコミュニティに育てていけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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