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プラチナライフ

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Vol. 8

最期まで人生の主人公であるために
任意後見制度を上手に活用したい

東京大学政策ビジョン研究センター 市民後見研究実証プロジェクト

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東京大学政策ビジョン研究センター 市民後見研究実証プロジェクト
特任研究員 飯間敏弘さん(写真左)
特任専門職員 佐々木佐織さん(同中央)
学術支援専門職員 金原和也さん(同右)

<市民後見研究実証プロジェクトとは>
「後見」の問題に関する調査・研究・教育などを行い、問題解決の処方箋を政策提言などのかたちで提示することにより、地域に暮らす人々の安心・安全を守り、その福祉の向上を図ることを主要な目的として活動を展開。市民後見人を養成するための講座の開催、後見関連事項に関する調査・研究、後見活動や後見関連事業への支援などの事業などを行っている。

判断能力が衰える前に、その後の援助をしてくれる後見人を見つけることは、おひとりさまにとって重要な“人生の課題”です。そもそも、後見制度とはどのようなもので、いつから、どう活用すべきなのでしょうか。「市民後見人養成講座」を開催する、東京大学政策ビジョン研究センター市民後見研究実証プロジェクトの方々にうかがいました。

 

判断能力が衰えると「契約」を結べなくなる

市民後見研究実証プロジェクトでは「市民後見人養成講座」を開催していらっしゃいますが、その背景について教えてください。

【飯間さん】核家族化が進み、独居世帯や高齢者世帯が増えるなか、判断能力が衰え、財産管理などができず、悪徳商法などの被害にあうケースが増えています。また、福祉や介護のサービスを受けたくても、判断能力が衰えると契約ができず、利用できないこともあります。そのときに周囲の人がサポートする有効な手段として成年後見制度があります。ですが、需要が急増するなか、弁護士や司法書士、介護福祉士などの専門職だけでは対応しきれなくなっている。そこで、一般市民の方々にも「市民後見人」として、地域の困っている人を支えてもらうことを提唱しています。

 

【金原さん】その一方で、成年後見制度自体がまだまだ知られていないのが実情です。たとえば、判断能力が衰えている人が自宅を売却して施設に入ろうと思っても、施設に入る手続きも不動産業者との取引も、後見人がいなければ難しいことは、まだ世間一般には知られていません。いまは、後見制度について啓蒙を行っている段階です。

 

 

 

 

任意後見制度には“お試し期間”もある

 

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度がありますよね。判断能力が衰えてからだと、家庭裁判所が選任した法定後見人、つまり見ず知らずの人が後見人になる可能性もあるそうですが…。

【金原さん】はい。判断能力があるうちであれば、自分が任せたい人に後見人になってもらう任意後見制度を利用することができます。この場合は、後見人に「自分は終末期をどのように過ごしたいか、そのためにどんな判断をして欲しいか」を伝えることも、話し合いで後見人の報酬を決めることもできます。また、任意後見が発効するまでの間、後見人と定期的に連絡を取る見守り契約や、財産管理をしてもらう委任契約もあります。

 

お試し期間のようなものでしょうか?

【金原さん】そうです。ただ、任意後見がスタートすると任意後見監督人が、後見人が任務を怠ったり、不正な行為を行わないよう監督しますが、任意後見開始前の見守り契約や委任契約には監督人はいません。その段階で後見人が不正を働くという被害もありました。

 

そんなことが!? でも、判断能力がある間ならば、不正を働く後見人との契約を解除することも可能ですよね。

【金原さん】任意後見がスタートしていない段階ならば容易に解除できます。そもそも、任意後見人は信頼できる人を選ぶものですが、人間には「魔が差す」こともある…。そう考えると、個人よりは、複数の人がいてチェック機能が働く法人、たとえばNPO法人などと契約したほうが安心かもしれません。

 また、後見人が亡くなるなど任務を果たせなくなった場合、任意後見がスタートしている(=判断能力が衰えている)と新たな任意後見の契約を結ぶことができないので、その後は法定後見制度を利用することになります。ですが、法人と契約していれば、担当者は代わるけれど、引き続きその法人が後見してくれます。

 

当初の契約どおりの内容で後見してもらえるのですね。

利用しやすくする行政の努力も必要

【金原さん】とはいえ、法人ならばすべてよしというわけではありません。本来的には、本人の意思を反映しやすい任意後見制度なら、後見の内容をオーダーメイドできてしかるべきですが、パッケージプランのようなかたちで提供され、料金も決まっているケースが少なくありません。本人の意思を尊重するよりも、後見人が主導権を握り、利用者が後見人の価値観に合わせざるをえないのが実情です。

 

後見制度は、本人と後見人とが対等な関係で話し合い、契約をし、後見が行われるものであって欲しいものです。どうすれば利用者側の理想に近づけるのでしょうか?

【佐々木さん】 そもそも、後見制度を知らない人が多いこと自体が問題です。また、任意後見を利用するには公証役場などでの手続きが必要ですが、公証役場自体が身近に感じられる場所ではありません。公証役場へ行く前の段階で疑問や不安に応えてくれる、地域の相談機関があることも必要でしょう。見守り契約や委任契約など、任意後見監督人や家庭裁判所の目が届かない期間でも相談機関などのサポートが得られる重層的なしくみを作る必要もあります。

 

■後見人の仕事は「手配」と「支払い」

利用者側が理解しておくべきこともありますか?

【佐々木さん】後見制度そのものに対する誤解もあります。その最たるものが「後見人は何でもやってくれる」というもの。後見人の仕事は「身上監護」と「財産管理」です。身上監護は、介護保険の申請や手続き、介護サービスの契約、入院手続き、老人ホームへの入居手配、契約など。財産管理は金融資産の管理や不動産の管理や売買、公共料金や税金の支払いなどです。毎日様子を見にきたり、掃除をしたりするわけではありません。にもかかわらず、過大な期待を持たれてしまい「後見人が何もしてくれない」というクレームにつながることも少なくない。コミュニケーション不足もあるのかもしれませんが…。

 

「身上監護」という言葉はわかりにくいですよね。だから「身の回りのことを何でもやってくれる家政婦(夫)さんが来る」と勘違いしてしまうのかもしれません(笑)。

【金原さん】後見人の仕事は「手配」と「支払い」です。ともあれ、判断能力が衰えたときには後見制度によって権利が擁護されることを知ってもらうと同時に、後見人の職務についても理解していただきたいですね。

 

自分らしい終末期を過ごすための後見制度の活用とは

おひとりさまは、どのタイミングで任意後見制度を利用するのがいいのでしょうか。また、後見人やNPO法人はどこで探せばいいのでしょうか?

【佐々木さん】ご自身が判断力を失ったあとのことを託すわけですから、できるだけ早く、「この人や組織なら信頼できる」と思う相手を見つける必要があります。成年後見制度のセミナーや講演会を定期的に開催しているNPO法人もありますから、そこに参加するのもひとつの方法です。自分自身がNPOの会員になり、元気なうちは地域で困っている人を支援し、その活動を通じてそこが「信頼できる」と思えたなら、自分自身の将来も委託するという選択肢も考えられるでしょう

 

 それは参考にできそうですね。

【金原さん】肝心なことは、後見人やNPO法人を「ただ見つければいい」わけではないということです。あらかじめ、自分が終末期をどこで、どう過ごしたいのか、そのために何をどう判断して欲しいのかを決めたうえで、それを叶えてくれる相手を探さなければなりません。たとえば「在宅で介護を受けたい」とか「海の見える場所で最期を迎えたい」など、人生の最期の日まで自分自身が人生の主人公であるためにも、自分の希望をはっきりと伝えるべきです。

 

まず、自分が「どうしたいか」を決め、それを叶えてくれる後見人を探すべきなんですね。

【金原さん】それと、おひとりさまの場合、介護施設への入居や病院に入院する際に連帯保証人のなり手がいないという話も聞きます。任意後見契約を結んでいれば、(後見人は連帯保証人ではありませんが)後見人が「手配」も「支払い」もやってくれるので、施設や病院の側も安心して受け入れることができるというメリットもあります。

 

それは助かりますね! 連帯保証人は、おひとりさまにとって重要課題のひとつですから。最後に、プロジェクトの今後の展開について教えてください。

【飯間さん】本プロジェクトは、今後、カリキュラムや教育のあり方など、私たちが培ったノウハウを他の大学や行政機関に提供するなど、さまざまなかたちで社会と連携しながら、調査、研究、実践の結果と成果を社会に還元していきたいと考えています。

 

長時間、ありがとうございました

 

 

 

 

 

 

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